2017年10月28日に初版発行され、第158回直木三十五賞候補作品に選出された『ふたご』著者 藤崎彩織
わたしはSEKAI NO OWARIのファンでもあったため薄々読まなくても噂だけで内容を察してしまっていたのですが…
2022年、今更ですがその本を手にしたので素直な感想を書こうと思います。
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読む前、読みはじめ、中盤、読み終わりと印象が変わっていく
読み始める前は、
深瀬と彩織の物語
セカオワの誕生秘話
著者のラブレターと心の整理本と思っていた。
あながち間違ってはいないのだろうけど、そんな安い言葉で片付けてはいけない本
一気に読んでしまいたかった
そしてその時得た気持ちを全部吐き出したかった。でないと読んでいるこっちも苦しい。
わたしは時間の都合上、通勤途中や仕事のお昼休みに読んでいたのだけれど、急に感情がどっと押し寄せて
この小説は何度泣かせてくれるんだ
と、思うシーンが幾度もあり、涙をこらえるのに必死だった。
というか涙していた。そして読む時間が中断されてはその先どうなったのか悶々としていた。
それだけ情景がみえすぎて、いろんな思いときっと今なら本人も理解できるのだろう「そうじゃないんだよ」と声をかけたくなる気持ちが遠いところから2人をみている読者である私にも芽生えるほどストーリーに入ってしまうそんな内容だった。
そうこれは、日記でもラブレターでも歌詞でもない。直木賞候補と認められるほどの『小説』なのだ。
実話と言われる訳 セカオワファンとセカオワを知らない人によって受け取り方も違う?!
実話と思わざるを得ないのは、本人たちがメディアを通して話してきたエピソードや、わたしたちファンがライブを通してみてきた2人の関係もそのまま物語にでてくるからだ。
- 夏子が小学生時代、掃除の時間にピアノを弾いていて、月島が先生に不満を言ったと
- 月島が留学したけどすぐに帰ってきたことや精神科に入院していたこと
- バンドメンバーで大鳥居にライブハウスを作り上げたこと
- 細かいことを言えば、『縄跳び』のエピソード
- ピエロのお面を最初は月島がつけようとしていたこと
セカオワのファンであれば、「あぁ、これはアレのことかな」「このエピソードは何度も聞いたことがある」と想像しながら読むことができるであろう。
ただ、全くセカオワを知らない方、メンバーの関係性や、実際にいる人物としてみていない方、読書ファンとして本を手にした方からみたらまた全く違う心境で読み進めていくことになるだろう。
※知らない方のために物語の主人公とセカオワ本人をあてはめると⬇︎
夏子(=彩織)
月島(=深瀬)
ぐっちん(=なかじん)
ラジオ(=Love)
Fukase父のことば
深瀬が実際、アメリカ留学をしておかしくなってしまった際に、深瀬の父親が彩織ちゃんと離れたことについて言った言葉があります。
深瀬:うちの父が
『心が一つになり過ぎて、離れたときに肉体が引き裂かれた感じだったんじゃないか』って言ってたんですけど、実際そんな感じだったと思います。2010年MUSICA3月号より
父親の言葉も詩人ですよね。
心が一つになりすぎて肉体が引き裂かれるってどんな感じだろう。
まだずっと一緒にいる気持ちでいるのに離れなきゃならない現実に耐えられず「あれ?」ってそこで気づく喪失感
深瀬のパニック障害や帰国はその喪失感がきっかけだったのでしょうか。
いちファンからみた二人の関係
一ファンから見たセカオワ深瀬と彩織ちゃんの関係も月島と夏子そのもの
ステージ上のイチャツキ具合もファンの間で有名でした。
あんなことされたら、好きにならないわけがないよな。
ファンたちからそんな声がよく聞こえてきました。
深瀬に彼女ができたときの彩織ちゃんの気持ちも勿論考えた。
どんな気持ちなんだろう
いくら新しい彼女ができたとしても、深瀬の奥深くまで知っているのは私。私たちは誰にも越えられない超越した関係
そんな風に自信があるようにも見えた。
でも心の中まではわからない
実際どうなのかなんて本人の口から出たことしか知りえない
今回この本を読んで、本当に痛いくらい主人公「夏子」の気持ちが知れて、同時に彩織ちゃんもこんな気持ちで何度も何度も自分に言い聞かせて唇を嚙んでぐっと胸の奥にしまい込んだのかなぁ…と想像してしまいました。
月島という男はずるい
月島はずるい
1人の男にいい意味で振り回され心を痛めている少女の話
読みはじめはそんな印象
青春時代、素直に心の中のすべてを言語化する少年
そんな彼に興味を持ち、惹かれながらもときには振り回され、時には心の支えになってもらっている少女
ティーンエイジャー時代にそんな相手がお互いにいたのであればそれはお互いを『特別な存在』だと認識するのに時間はかからないだろう。
自分を慕っていつまでもついてくる少女
いつも思いもよらない言動で追いついても追いついてもつかめない彼
どこかで距離をおけば、また違う人生があったのだと思う
辛い思いをせずに青春時代を過ごせたのかもしれない
でも夏子はそれができなかったんだ
状況は違えど、夏子と同じような心境になったことがあることを思い出し胸が痛くなる描写がいくつもあった。
気持ちと身体が追い付かない
一部後半になると緊迫したシーンが続き、時折息をのみながら次へ次へと読み進んでいった。
月島の留学のために心の準備をしてきた夏子
別れた際も世界の終わりかと思う程の喪失感と重い心から戦っていた。
そんな夏子とは裏腹に忠告も聞かず最低限の準備もせず足軽と向かった月島がいとも簡単に「帰りたい」と何度も弱音を吐く
月島が帰りたいと言って「嬉しい」なんて感情はそこにはない。悲しくもあり情けなくもあり、それまでの費やした夏子の心時間•心労はなんだったのだろうと一瞬時が止まりわからなくなってしまった感覚だ。
心を鬼にして口にしたことばに月島は…
いつも理解してくれているいつもそばにいてくれている夏子から欲しかったことばがもらえなかったことに強いショックをうけたのだろう。
その後、夏子の家に突然現れた月島との2人のシーンも息を呑みながら一気に読み進めた。
この小説はADHDの家族や親しい友人がいる方の気持ちものぞき見している感じにさせられる。
わたしは、夏子のように寄り添えないと思う。
自分自身も弱いからすぐに吞まれちゃうかもしれない。
夏子が実年齢以上に大人で強い女性であることがわかる。
白い花
この小説には目に浮かぶような情景が本当に細かい美しい、そしてリアルな表現で書き下ろしてあるのだけれど、
白い花の表現は特に好きだった。
恋している女性は皆心の中に白い花を持っているのかもしれない。それが赤でもピンクでも黄色でもいいのだけれど
バンドメンバー
夏子が、彩織がバンドメンバーであってよかった。
夏子も月島もはじめはそれを嫌がっていたが、こうなることはわかっていたように。
ライブハウス作りにこんなにも協力していてバンドメンバーじゃなかったらなんか違うと思う
マネージャーとしてとか他のかかわり方もあったかもしれないけどなんか違う
それは月島の『同じ景色がみたい』のところに答えがあるのかもしれない。
そしてぐっちん(なかじん)の熱い気持ちも伝わってきた
脱退したメンバーの存在も知っていたけど、矢部ちゃんとのそれまでの時間も決して無駄ではなかったと思う。
そしてラジオ(LOVE)の存在がメンバーを明るく照らしているのもよくわかる。
すみれちゃんの存在・夏子が悟ったキッカケは・・・?驚きの展開
すみれちゃんは幻の命のママ?
後半に出てくる「すみれちゃん」との展開は誰もが想像できなかったのではないかと思う。
恋敵である女性は何名もいたはずで、小説の中でも嫉妬の対象は出てくるし、
実際にもいたはず。
ただ、すみれと夏子の出来事は事実なのか、
この小説に箔をつける、インパクトをもたらすために作られたストーリーなのかはわからない。
しかし、この出来事によって夏子は何かを悟るキッカケになったのだと私は思う。
第三者を通して愛しい人を感じる。
究極だ。
昔話題だった昼ドラの『真珠婦人』を思い出す内容だった。
『何かが終わったような気がした。ずっと叶わなかかった願いを、密かに叶えた気もした』
という一文に切なさを感じた。
そしてこの「すみれちゃん」こそが、
『幻の命』のママなのではないかと私は推測する。
幻の命になった日、April30,2005年 ちょうど深瀬も20歳頃で、この小説にでてくる月島とすみれちゃんが逢ったのも20歳頃だ。
きっとすみれちゃんモデルの方も「TUKUSHI」に寄り添うような優しい花の名前だったんじゃないかな。
すみれちゃんの「きっと私のことはすぐに忘れるよ」ということばもとても深い意味がありそうで切なさを感じます。
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おわりに
本の感想を書いたのなんて小学生ぶり
思いのほか長い感想と考察になってしまいましたが、
それだけ読み応えのある小説でした。
ファンとしての先入観や、想像も持ちながら読み進めたのですが、『本当の事、気持ちは誰にもわからない』
本人しかわからないし本人さえわかっていないこともあることを改めて本を通して感じました。
「もしも、ふたごであったなら」そんなフレーズが何度もでてきますが、
それを願う、いっそそうであってほしい、主人公夏子の気持ちもわかります。
また、夏子がしっかりしていたからいいものの、一歩間違えればとんでもない方向に進んでいってしまう少年少女でもあったと思います。
セカオワが成功してよかった(笑)
世界の終わりからはじめよう!
そんな彼らのバンド名の由来もこの過去があってこそなんだな。と改めて実感しました。
特に女性に読んでほしい一冊です。
ぜひ、手にとってみてください!